明朝体
君にだけ言ふが蛍を飼つてゐる
匙下の潰れ苺や逆さ富士
おとうとをひなたみづだと思ふなり
枇杷を見て化膿してゐる子供たち
錦鯉すべての雨を背負ひけり
冷やかのこれ鉄棒や変声期
ともだちのいまくだかれて水蜜桃
秋の野に先日よりのポリープが
赤い羽根鍵盤のいづこも大人
寸閑を目覚め鰯の反射光
薄明や手首流るる冬の川
ははおやのクローゼットの中は火事
寒夕焼人体模型無毛なる
冬凪の通訳少しづつずれる
てのひらの錠剤の山春隣
春寒の鼻腔が沢を嗅ぎたがる
水まとふごとくありけり春ショール
めづらしき生物として花を食む
生まれきて蝌蚪地球より逸脱す
鶯餅裏声に似た発芽かな