塩化ビニル
指は三つ編みを続ける立夏かな
背泳ぎのはじめ人体畳まれて
万緑の中や閉ぢたるリカの口
ソーダ水あやふやに立つ電波塔
目高の群ひるがへりをり糞もまた
誰も右前方を向く揚花火
蛇衣を脱ぐ年表に火の付いて
総身の軟らかくなる劫暑かな
熱帯魚寝てゐるときも目をあけて
塩化ビニル含羞草何度も触れる
からだとは白玉何個分のこと
日盛やリカの両脚やや粘る
八月の肉塊串に刺さりけり
初秋の砂すべり来る滑り台
靴一歩動かして立つ秋気かな
天の川名前なければ抱くなにか
柘榴ことのはどこかの家で鳴るピアノ
一生を同じ稲穂を見て案山子
コピー・アンド・ペースト虫を追ふこども
竜田姫何にでもなるリカゆゑに
無花果や背中で留めるワンピース
体毛のうすき父なりとろろ汁
偽物の林檎を切れば海の音
紅葉且つ散るはじまりを違へたる
靴下を枯野のどこに捧げたか
七五三肺は酸素を呼んでをり
寒林にわづかに姉の息遣い
雪催海に足先のみ浸す
鮟鱇を割ればちひさき靴の出て
寒卵殻にて殻を掬ひけり
きやうだいがみんな色塗る冬館
白菜の真中に胎児手を握り
ストーブ赤し毛髪の反り返る
かうかうと鶴の渇いてをりにけり
セーター着る卵の殻を剥くごとく
着膨れてなほ着膨れてゆくリカは
くちづけて山河の匂ふ雪女郎
健全でせうあけましておめでたう
体内の更新止める薬 春
薄氷折られて紙の重くなる
春昼にポリエステルの服洗ふ
映るまで鏡を磨く余寒かな
雛人形あたたかくなる抱きをれば
満天星の花等しくは愛されぬ
永き日や文字置くやうに書く手紙
花菜風君とは体温がちがふ
ぶつかつてをりちちははの春日傘
芝桜背丈のそろふ眠りかな
夏近し魚卵の中に目の光る
リカちやんは春の夢なり彼岸なり
第37回兜太現代俳句新人賞応募作品